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あの日僕達が見た風景

[JUGEMテーマ]むかしのはなし。

今日本屋で裕二を見かけた。中学の時一番仲の良かった友達だ。その後別々の高校になってからは、今日までほとんど会う機会もなく過ごしてきた。当然のことながら中学校時代とはだいぶ変わっていたが、このように不意に会ってもわかる程度の面影は残しているようだ。避けたわけではないが、声をかけずに帰宅。そして買ってきた雑誌を開こうとしたその時、あの五年前の記憶が蘇ってきた。

−中三の11月某日−
裕二は一年生の真弓を好きになったと僕に告白してきた。僕より本人に告白したほうがいいのではないかと思いつつも、どんな子なのか興味があったので二人で真弓を見に行き、こんなところが良いとかそうでもないとか勝手に二人で盛り上がっていたものだ。僕から見た真弓は、可愛らしい子ではあるが僕の好みのタイプではなかった。まあ僕達二人の好みが違うということは取り合いにならないということでもあるのだけれど。
−12月某日−
僕には二つ下の妹がいる。そう、あの真弓と同学年。学年ばかりかクラスも一緒だった。それを知った裕二は、妹から真弓の住所を聞き出して欲しいと言ってきた。年賀状を出したいらしい。まったく知らない人から年賀状が来たら怖がられるんじゃないかと思ったが、そこのところはあまり深く考えないことにして妹に聞いてみる。もちろん裕二に頼まれたということも忘れずに言った。僕が知りたがっていると勘違いされた日には何を言われるかわかったもんじゃないから。住所はクラス全員の名簿みたいなものがあってすぐにわかった。が、もうひとつ裕二にとっては聞きたくないであろうことまで聞かされてしまったのだ。それは…真弓には好きな人がいるらしいということだった。好きなだけなのか付き合っているのかまでは聞かなかったが、とにかくそういうことらしい。次の日僕は裕二に真弓の住所を書いた紙切れを手渡す。しかし、彼女に好きな人がいるということは、僕にはとても言えることではなかった。
−翌年1月某日−
そこには朝からハイテンションの裕二がいた。真弓から年賀状が届いたらしい。それが義理だとしてもわざわざお返しに出してくれるということは、彼女は結構やさしいのだろう。ただ、あのことを知っている僕としては、素直に彼と一緒によろこんでやる気分にはなれなかった。いつもより口数の多い裕二と少ない僕、それはその日一日中続いた。


  僕にはさ ひとつの夢があったんだ
  あっそうだね 夢なんて誰でも持ってると思うし
  僕もひとつだけじゃないかもしれない
  えっとね いちばん大切な夢のことだよ

  でもさ それを捨てなきゃいけなくなったんだ
  他の夢はいつまでも持ち続けていられるんだけど
  これだけはそうできないらしいんだよ

  夢ってさ 今まで実現したことがないから予定通りってとこなのかな
  だけどね 予定通りなんだけどね なんだか涙が止まらないんだよ
  ずうっとね 涙が止まらないんだよ


−2月某日−
真弓が転校するらしい。それも一週間後に。情報源は妹なので間違いはなかった。次の日、裕二に会うと真っ先にそのことを伝えた。一瞬驚いたような表情を見せたが、「そう」とだけ答えた。真弓には好きな人がいる。でも、もうすぐいなくなってしまう。結果はどうあれ気持ちを伝えてたほうがいいんじゃないかと僕は思った。
「なあ裕二、この際はっきり言っちゃえよ」
「いや、やめとくよ」
「もうすぐ転校しちゃうんだぞ」
「……」
「ダメもとでいけよ。言わなかったらずっと後悔するんじゃないか?」
「…でも…あの子には好きな人がいるんだよな…」
ポツリと言った裕二のその言葉は、僕は胃の辺りをキューと締め付けた。が、冷静さを装い会話を続ける。
「なんでそんなことわかるんだ?」
「……」
「裕二!」
「なんとなくだよ」
「いつからそんなこと考えてたんだ?」
「うーん…いつだったかな」
「じゃあ、もうそれでもいいから言っちゃえよ」
「…………」
「それでいいのか?裕二!」
「…ああ…いいんだ…」
裕二は僕から少し離れ、宝物のように大切にしていた真弓からの年賀状をずっと見つめていた。彼の肩が震えたようにも見えたが、それは僕の心が震えたせいだったのかもしれない。

その日は裕二と徒歩で帰った。あまり言葉を交わさなかったけれど、その日に限ってのそれは僕達にとって必要なものではなかった。

今でも憶えている。あの帰り道。
あの頃は遠くの景色が今よりずっと近くに見えたような気がする。

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    Catergory in 1980円 comments(0) trackbacks(0)
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